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『えいごリアン』
(1)英語の単語をどんどん拾っていく子どもたち
(2)「英語は分からない」というつぶやき
 前号(ぼーぐなん広場 No.75)に続き、『えいごリアン(2000年度版)』を視聴中の子ども
たちの様子についてご投稿いただきました。『えいごリアン』の企画に携わられた久埜先生
とのQ&Aという形でご紹介します。

「えいごリアン 2000年度版」1−@ (小学校4年生)
(1) 英語の単語をどんどん拾っていく子どもたち   初めて見せた「えいごリアン」を、子どもたちは、身じろぎもせずに見ているのですが、  随所でぶつぶつと独り言を言っている様子が見られました。例えば、マイケルの天使姿を見  て、ある子が、「天使じゃん!」と言いました。すると、マイケルが、" I'm an angel." と言  うのが聞こえてきました。その子は、「あぁ、エンジェル。」と納得顔でつぶやきました。  続けて、"astronaut" と聞こえてきたのを聞き取って「アス…」と出だしだけ声に出して言  っていました。宇宙飛行士って英語でそういうのかと思ったのでしょう。リピートしてみよ  うとしたのですが、1度聞いただけだったので、全体は無理だったようです。それでも、本  人は、「ふ〜ん」と納得した顔をしていました。その子は、マヨとケチャが "Nice to meet  you!" という場面でも、最後にユージとマイケルが "Friend! " と抱き合う場面でも、イント  ネーションまでそっくり真似して、繰り返していました。クラスのあちこちで、この子のよ  うに、聞き取れたことを、口を動かして呟くようにリピートしている子どもたちが見受けら  れました。もしかしたら、この子たちは無意識にリピートしているのかも知れないと感じま  した。聞こえたことを繰り返すというのは、もしかしたら、子どもが新しいことばと出会っ  たときの化学反応のようなものかもしれないなぁなどと考えました。   普段の授業で、明示的にリピート練習させるのと、こうして、自然現象のように子ども自  身がリピートして納得していくのとでは、結果も違うのかなぁなどと思いましたが、いかが  でしょうか。また、子どもが自然にリピートしてしまうような状況を、自分の授業の中では、  どうしたら作れるのでしょうか。 A: 私自身が、「えいごリアン」を子どもに見せて授業をしていたときに経験した、子ども   たちの様々な表情が浮かんできました。本当に一人一人の子どもが、それぞれに反応して   いて、見とれてしまいますよね。    子どもたちが、聞こえたことを自分で勝手に繰り返している様子、とても大事な言語習   得の場面だとおもいます。赤ちゃんが母語に触れているときにも、いつもやっていること   なのですが、意外と見落とされているかと思います。これは private speech と呼ばれて   いるのですよね。    ちょっと思い返してください。「さぁ、もう一度言ってみましょう」と言うとしたら、   そこにはモデルの英語の間に、日本語が割り込んでいますよね。モデルと、子どもが真似   をしようとしている「心の中にある音」との間に、日本語を差し込んでしまっています。   また、Let's repeatと英語で指示をする場合も、折角子どもの頭の中では映像のストーリ   ーについて言っているのに、それを断ち切って練習することになりますから、練習する英   語そのものは場面から切り離されて意味を失ってしまいます。それより、やっぱり子ども   の心の動きを大事にして、真似をするのに任せておけばいい、と思います。    もう一つ大事なことは、真似をしたくなるような話しかけだと思います。「えいごリア   ン」では、多くの場合、真似をしたくなるような話しかけに成功していると思います。そ   れは、ミニ・ユージが、話しかけられているときに繰り返して何かを言ってしまう姿から   もよく分かります。私が経験したクラスでも、言えそうなところだけ真似をしている、と   いう場面に何度もぶつかりました。そして、それは中学年以下のクラスの子どもたちの方   が、無類に聞こえたとおりの音を創り出しているのです。The United States of America   と聞いた途端に、America とだけ言った子どもの発音は、まさにネイティブの音でした。    いいモデルの教材があるときには、やたらとこちらが口を出さずに、子どもの学びの姿   に任せる、というのが、何もしないけれど一挙両得、ということでしょうか。子どもの学   ぶ力をもっと信頼すべきだな、と思う一瞬です。 (2) 「英語は分からない」というつぶやき   同じ日のことです。何しろ初めての英語、初めてのえいごリアンですので、子どもたちは  不安だったのだと思います。途中までじっと見ていた男の子が、最後にいろいろな国の人々  が登場する場面に切り替わるときに、「英語分からないから、面白くない。」とつぶやきま  した。ところが、その子、そう言い終わるやいなや画面に反応して、「え、チリじゃん。南  米だよ。」「あ、中国。えっと、China! China!」と嬉しそうに声を挙げ続けました。最後  にイギリスがでてきたところで、「イギリス?」と発言。画面から、"English" と聞こえて  きたところで、一瞬たじろぎ、「イギリ〜ス!」と英語風に発音して、実に楽しそうにして  いたのです。表情がくるくる変わるその様子からは、「分からないところがたくさんある」  「いや、でも、分かるところもあるぞ」と、心が揺れている様子が、手に取るように分かり  ました。はじめにその子が「分からないから面白くない」と言ったときは、正直、ドキッと  しました。子どもがそこで投げ出してしまったら、大変だぁ、と私は動揺していたのですが、  不思議なことに、えいごリアンは、分からないという子どもの不安を忘れさせてしまうよう  です。   子どもたちは、新しいことばに出会って、分からないことばかりなのは当たり前で、不安  でいっぱいだろうと思うのです。子どもの不安を和らげ、投げ出さず、前向きな気持ちにさ  せるために、つい日本語で説明してしまいたくなるのですが、えいごリアンのように、日本  語で説明せずに、子どもたちを分かった気にさせる方が良いような気がするのですが、そう  なのでしょうか。どうして、そうなのでしょうか。そして、そうするには、どうしたらいい  のでしょうか。 A: 子どもが、「分からない」といってくるとき、とても不思議な気持ちになります。なぜ   って、結構聞こえてくる英語には反応しているのに、「分かんない」と言ってくるからで   す。「そんなこと言うけど、さっきちゃんと答えていたじゃないの」と言い返すのも折角   の訴えを無碍に退けているようなので、「だんだん分かるようになるから大丈夫」と励ま   したり、そんな時間的なゆとりのない場合は「そぉ、あなたの気持ちは分かったわよ」と   いう目配せをします。でも、心の中は、「ほんとかなぁ」という気分です。甘えているん   じゃないかな、という気持ちもします。そして、いろいろな場合を考えます。    ・周囲の大人たちに、「英語やってるの、分かる?」と聞かれたことがある子どもかな。     ましてや、「英語って難かしいだろ。私も学校で習ったとき難しくて嫌いだった」な     どということばを聞いてしまった子どもは論外です。    ・また、こんなことも思い出しています。ある時のこと、新出単語、といっても決して     難しい単語ではない外来語として日常使っている単語なのですが、先生が「今日新し     く練習する難しい単語を練習しましょう。はい、Pineapple. Pineapple!」と子どもた     ちに繰り返させておられました。子どもが、「そうか、pineapple は難しいんだ」と     思ってしまうのではないかと心配でした。    どうやら、ご質問の子どもも、ちょっと「分かんない」と言ってみただけで、大して苦   にしていないようですね。「分かんない」といわれた途端に、指導者は、ギクリとして、   たじろいでしまいそうになりますが、考えてみれば、大人の私たちも日本語の話しを100%   分かって聞いているとは限りません。分かるところだけをつなげて安心して聞いています。    勿論「えいごリアン」は、この「分からないかもしれない」部分を映像で十分にサポー   トしていますから、大人が口出しをしなくても子どもたちは吸い寄せられるように画面に   没入していきます。映像の力はすごいな、これを教師が一人で教室で頑張っても無理だな、   と思わせられました。映像教材のありがたさを十分に活用するのがいいな、と「えいごリ   アン」を作りながら考え続けたことでもあります。            ※質問者: 相田眞喜子   ※回答者 久埜百合                            2010.11.9.

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