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小中一貫での小学校英語活動の役割は?
  

2005年が終わろうとしています。
今年初めから待ち続けていた文部科学省からの、小学校英語についての方針は明らかになりませんでした。
でも、各地で、教育委員会や学校独自に英語活動を進め、研究が行われています。そして、小学校で英語に触
れてきた子どもたちを受け入れる中学校との連携が必ず問題になっています。
ここにご紹介するのは、岐阜県内の温泉地下呂にある小学校と中学校で英語教育の連携について研究をされ
ている先生からの途中経過です。他の地域でも同じような問題を抱えておいでの先生が居られるはずですが、
中々ネットワーキングが出来ません。この「広場」がお役に立って、情報交換の一歩が始まるといいと思います。
少々長いですが、どうぞ最後までお読みください。


小中一貫での小学校英語活動の役割は?

 私は、平成16年度から小学校と中学校の兼務という立場で、小中一貫で英語教育を考える機会を得る
ことができました。主には、小学校の英語活動を推進する立場ですが、中学校の英語専科の先生と協力し
ながら「9年間で子どもたちを育てよう」を合言葉に9年間のカリキュラムや小学校で育てた力を中学校
でどのように伸ばしていけるのか、様々な観点から検討をしてきました。しかし現実は、「教科」として
の中学校の英語と「総合的な学習」としての小学校英語活動との間には、簡単にはつながらない「壁」の
ようなものがあるように感じてきました。その壁が、従来通りの中学校における教育観であったり、教科
書であったり、定期テストであったり、受験であったり様々な要因が重なり合って、大きな「壁」とな
っているのではないかと考えています。とはいっても、小中一貫を意識した英語教育が必要であることは、
まぎれもない事実であり、今後もっと大切になると予想されます。そこで、小中一貫を実践していく上で、
明確にしておく必要のあることについて、大きく3点についてまとめてみたいと思います。


小学校や中学校では、どのように授業が行われているの?

 小・中学校の間で、これまで実践されてきてもおかしくなかったようなことが、現実には行われていな
いということがあります。その1つが、小・中職員の授業交流です。
「小学校では、いったい何をしているの?まったく話し方すら身に付いていないじゃないの」とか「小学
校であれだけ頑張っていた児童がなぜ中学校に行くとできなくなるの? 中学校の先生のやり方に問題が
あるのでは?」といった会話が、よく聞こえてきます。同じ校区内にある学校間でさえ、小・中の間にあ
る敷居が高いのが現実です。しかしこれでは、「9年間で児童・生徒を育てる」ことはできません。そこ
で、無理なく交流するためにぜひ実践したいことは、両校の校内研究会にそれぞれ参加することからスタ
ートすることです。各校には、必ず校内研究会というものが位置付けられています。そこに英語以外の教
科でも両校の先生がそれぞれの学校にお邪魔をして、児童・生徒の実態を間近で見たり、意見交流をした
りする場を設定することが大切です。そのような活動によって「9年間で育てる児童・生徒」という意識
が職員の中に根付いていくきっかけになると考えています。


小学校英語活動でどんな力がついてきたの?

 中学校との連携を考えた時、中学校の立場こそ、とても大変なのです。その理由に、様々なタイプの英
語活動を経験した児童は、「いったいどういった英語の力が身に付いているのか」が明確になっていない
ことが挙げられます。そしてそんな中で、現行の教育制度では、小学校で高められた児童の英語に対する
意欲・関心をさらに伸ばしていくことが求められているからです。そこで、いったい小学校英語活動は、
児童のどんな力を伸ばすきっかけになっているのか、ということを端的に表すことが必要であると考えま
した。それが次にまとめた8項目です。

 1 英語を使うときの表情:英語を介したやり取りの際の表情が柔らかくなる。
 2 発する音の英語らしさ:英語らしい発音やリズムに対する抵抗が少なくなる。
 3 ゆとりのある英語使用:より自然に英語を使ってやり取りを楽しむようになる。
 4 場にあった自然な身のこなし:必要な時に効果的にジェスチャーやあいづちをするようになる。
 5 基本的な英語のまちがいの少なさ:特に一般動詞とBe動詞の使用を混同しなくなる。
 6 類推慣れ:少ない情報を手立てに、意味を理解しようとするようになる。
 7 聞き続ける力:多少わからないといった場面でも、あきらめないで聞いていこうとするようになる。
 8 他者理解:だれにでも気軽に英語で話しかけたり、相手のことを聞こうとしたりするようになる。

 これらの項目は、竹原小学校の小学校英語活動を経験した児童とそうでない児童へのインタヴューテス
トの結果を比較し、検討をした内容です。これらの項目には、個人差があるものの、「英語を介して他者
と関わることへの自信や余裕」が少なからず、誰にでも生まれつつあるのではないかと、実践から感じて
います。このような力を児童がもって中学に入ってくることを中学校の先生が知っているならば、おのず
と中学校の英語の授業内容が変化していくのではないでしょうか。


小学校英語活動が中学校英語に与える影響は?

 小学校での英語活動が中学校の英語科の先生や授業にどのような影響を与えていくのでしょうか。そん
な疑問を私と一緒に小中一貫の実践研究を進めている中学校の英語の先生に質問しました。すると次の7
項目を挙げられました。

 1 中1の始めからAll English の授業も違和感なく行える。
 2 学期・学年枠を越えた語彙や表現を与えることができる。
 3 実践的な言語活動を早期に仕組むことができる。
 4 その場に応じた基本的な表現を即興的な場面で活用させやすい。
 5 小学校英語活動とのつながりを考え、スパイラル的な学習を意識するようになった。
 6 リスニング問題の作成において様々な語彙を取り入れることができる。
 7 「聞く・話す」により重点をおいた評価をするためにインタヴューテストをするようになった。

 特に中1の段階の授業内容に変化がうまれています。例えば、ALTや他の英語科の先生を相手にし、
canを主に使って自分を売り込むJob Huntingのような授業内容において、突然の質問に対して上手に切
り抜けたり、より自分をわかってほしいと意欲的に自分の得意なこと、好きなことをどんどん伝えようと
したりする姿が中1の段階からみられるようになってきています。

 これら3つの基本的な内容を、小学校で英語活動を行う教師、そして、中学校の英語科教師が十分理解
した上で、それぞれの授業内容を検討していくことが、小中一貫を行うための基本ではないかと思います。
小学校は、英語活動を通して、英語に慣れ親しむことが第一前提にあるのですが、その「慣れ親しむ」活動
を通して、私たちは、いったいどのような力を児童・生徒に付けさせたいと考えているのか、そのねらいを
明確にもって授業内容を検討していくことが大切だと痛感しています。

                                                         新井 謙司  (岐阜県下呂市立竹原小学校)
         


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