HP  (20)

母となって8ケ月:
娘がことばを獲得するまでの私的観察ノート@
 
    


 子どもに英語を教える仕事を通して、これまでも興味深く子どもたちの学習の様子を見てきましたが、
母親の目で8か月になる娘の成長を観察する中で、子どもの言葉の学びとは本当に面白いな、と改めて
感じていることを報告させていただきたいと思います。

 「う〜、あ〜」という機嫌の良い声や、「ほぉ〜」という笑い声にも似た声を日常的に出すようになり、
2ヶ月を過ぎると、 一息で出す声の長さがだいぶ長くなり、短い音も連続して出すようになりました。
その頃から、 娘の声の出し方に「イントネーション」を感じるようになりました。 「あう〜あ〜」と抑揚を
楽しむように繰り返される声は、大人の話す声の調子とは全く違うものかとも思いますが、言葉を話す
第一歩を踏み出しているのだと思いました。 一時期のイントネーションが、他の言語を聞いているよう
に感じられたこともあります。一つの言語に固まってしまった大人にはとても真似できないような音を、
乳児期の子どもが持っていることを実感するものでもありました。
 
 最近では、「ちょっと待っててね!」がちっとも「ちょっと」ではなかったり、楽しい遊びを「危ない!」
と取り上げられたりすると、 不満の顔や、つまらなさそうな顔を見せるのと同時に、 「おそ〜い。 お腹
空いた〜」や「遊んでたのにい〜、どうして取り上げるの〜」とでも言うように、イントネーションたっぷり
に不満の声を出します。そしてその表情や声に、こちらがつい笑いながら見ていたりすると、訴える声は
さらに大きくなります。ことばを身につけ始める時、脳の中でどのような処理がなされているのか、 少し
だけでも覗かせてもらいたい気持ちになります。

 また、乳幼児に対する「語りかけ」について感じていることがあります。こちらの言っていることをことば
として理解することは期待できなくても、赤ちゃんに対して、周りの大人は、いろいろなことを語りかけます。
その時、とても簡潔で、的確な表現を使っているように思うのです。例えば赤ちゃんを腕に、独り言のように
何か呟く時にしても、 日本語の文法規則にのっとった、 きちんとした文章を口にしているのではないかと
思います。 そう考えると、外国語を指導する際も、コミュニケーションが取れればよいからとか全部は理解
できないのだからと、 be動詞や冠詞などを抜いたりして単純化したことばで語りかければよいなどという
ことは、当てはまらないのではないかと思うのです。

  その代わり、学習者も、指導者も、頼るのは語りかける体全体の動きや声の「表情」ではないでしょうか。
赤ちゃんに対して、 皆、 表情たっぷりに語りかけます。 それを見て、赤ちゃんは笑ったり、見つめ返したり、
返事をしているかのように声を出したりします。 とてもタイミング良く返事のような声を出すのは、 話し
かけている側の笑顔が、文章の終わりにかけて「とびきり」になり、その笑顔に対して、赤ちゃんは快い声を
出しているからなのかも知れません。改めて、言葉の学習と、心を通わせることとの関係を大切に思います。 
 娘が、5ヶ月になった頃のことです。 私が少し離れた所で用事をしていると、 「きゃは」と高い声が聞こえ
ました。娘の方を見ると、 「ほら、見て、見て!」と言う様におもちゃを掲げてこちらを見ていました。 また、
「うーうー」と繰り返す声が聞こえるので目を向けると、 「あ、 見てくれたね」と言う様に笑顔でこちらを
見ている娘の姿を見つけることもありました。 手を伸ばしたり、 見つめたりしただけでは注意が引けない
状況で、声を出して呼ぶことをしたのかな、と思いました。

 時に、受動的に見られる言葉の学習ですが、本当に必要なことがあった時、それを伝える「声」を出すのは、
英語を学ぶ子どもたちも同じだろうと思います。  授業の中で子どもたちの口がつぐまれたままの場合、
もしかするとそれは、発話する必要のないものを与えられているからかもしれない。 伝えたいことがあれば、
何らかの「声」を使って伝えてくれるもので、そういった時の声は、仮に完全な英語でなかったとしても間違い
なく生きた言葉なのだろうと思うのです。 そんなことも考えながら、この先さらに豊かになる娘の心と言葉の
成長を、見守っていきたいと思っています。


                                                            野田 かなえ  (前・中部学院大学)


         


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