HP  (17)
子どもの英語の間違いは
どこまで直したらいいの? 

     
Q:  小学生に英語を教える教師の集まりで、次のような話が出ました。
   「○先生は、生徒のまちがいは全部訂正するっておっしゃったわ。」
  「△先生は、見逃しておくって言ってたけど・・・。」
  「私は、自分がまちがわないように英語で話すのが精一杯。
  でも、考えると訂正して言い直させてしまっている気がする。」
  小学生に英語を教える際に、冠詞や複数・単数などの誤りをその都度意識させて直す
  べきか、という疑問がひとつあります。
  それに加えて、この問題のように、同じ地域の、しかも公立小学校で教える立場の中
  で考え方に違いが生じた場合、それを統一することが必要なのか、各学校の判断に
  ゆだねて良いものなのかという問題も生じつつあることがわかりました。

  「子どもに最善のものを」という意識では一致していても、各教師の経験や考え方
  には違いがあります。指導を始めたばかりの教師にとっては、先輩の意見が異なって
  いると、どちらが正しいのか、判断しかねる場合も出てきています。
  子ども達にとってより良い授業を目指すために、どうしていったら良いものでしょうか。

                     栃木県大田原市児童英語教師の会 Patena

A:  子どもが英語で話そうとすると、どうしても不完全な言い方をしてしまいます。
  そのときに、大いに褒めてしまって、その不完全さを気づかせない、間違いを訂正
  してあげない、ということはよくないでしょうね。しかしながら、学習途上の、まだ
  まだ英語経験が乏しい子どもに、「その誤りに気づかせて、子ども自身が“訂正しよう”
  と思えるように導く」には、中々難しいテクニックを要します。個々の子どもが、英語
  習熟のどの段階にいるかをよく考えて、適切に正しいモデルを与えなければなりません。

  まず、子どもの年齢が低いため、英語の仕組みを考えるにはまだ早く、日本語のルール
  も分析的に考えられない場合、ひたすら教師の話しかける英語を繰り返していることが
  よくあります。リズムもイントネーションもそれなりに真似をしているけれど、冠詞や
  複数の-s が聞こえてこない、という状況であれば、teacher talk に磨きをかけて、
  さらに聞きやすく語りかける、という程度で指導しますが、中々うまくは行かず、ある
  程度のところでこちらが我慢をする、ということになると思います。そうして、何とか
  してinputの量を豊かにするように心がけます。

  ご指摘の「冠詞や複数・単数などの誤り」は、英語を選考している大学生でも間違えて
  発話し、気がつくこともない、ということがあります。無意識の間違いを意識的に自己
  修正できるように仕向けるためには、その都度その間違いを意識させる方がいいかも
  しれません。ただ、注意されることでだんまりを決め込んでしまうような性格の学習者
  には、効果がないどころか、却って学習の意欲を削いでしまい、訂正してあげる親切が
  仇になる危うさがあります。

  学習経験をある程度積んで、2〜3年目になる小学生も同じことです。冠詞や可算名詞・
  不可算名詞の扱い方は、be 動詞、have 動詞、like/want などの動詞で表現活動をする
  ときに、頻繁に出てきますが、1回注意したところで、すぐに間違えなくなるわけでは
  なく、だからと言って、間違えるたびに先生に「ホラ、また!」などと訂正されると、
  何故、それがそんなに重大な間違いなのかよく分かっていない学習者にとっては、辛い
  学びになってしまいます。

  では、英語圏で育つと、何故そのような間違いをしなくなるのでしょうか。間違える度
  に指摘してもらえるからではなく、「正しい語法」を毎日聞き続け、幼児期だけでも、
  何千時間、何万時間と蓄積されていくからです。両親や、周囲にいる人たちの英語の癖
  も含めてすべてを吸収してしまいます。これは、日本語に囲まれて育つ場合も、置かれた
  環境の話し方を身に付けるのとおなじことですよね。

  日本のような、学校や塾の教室だけで英語を聞くことができる環境では、いくら質のよい
  英語を聞いたとしても、そのすべてを吸収して保持することは難しいでしょう。特に、
  分析的に、単語のつながりとして英文を納得しようとする発達段階に到達した10歳以上
  の子どもたちを、効率的に納得させるには、よほど上手に、計画的に言語材料をそろえて、
  順序よく inputして、子どもが自発的に気づくことができるように仕組んでおく必要が
  あります。
 
  子どもが間違いを犯すのには理由があります。冠詞の役割どころか、用語さえ知らない
  子どもたちにとって、「いくつもある中の一つ」という意味の"a/an" だったり、
  「それ!」と指定する"the"だったり、「こっち、いや、あっち!」という意味の"this/that"
  だったり、ということをそんな短い聞こえ難い音で表現するなんて、思いも及ばないでしょう。
  まして、日本語では殆ど気にしない「一つか、それ以上か」という問題を[s/z/iz]という音で
  決めてしまうことや、行為者が単数か複数かでいちいち音を変える、なんてとてもじゃない
  けれど“癖”になるほど身に付けるのは至難の業です。

  このルールを、実は子どもたちは英語のリズムの中で身につけて行きます。一つシラブル
  が増えるか増えないか、というだけの感覚的な処理で、使いこなすことができるようになる
  ことがあるのです。そのためには、やはり input の音がそれなりの質を保っていなければ
  ならない、ということではあります。だからこそ多くの先生方が、「私の英語力では・・・、
  私の発音では・・・」としり込みをされているのではないでしょうか。良心的に子どもたち
  に英語を身に付けて欲しい、と思っておられる先生方ほど、その思いが強いと思います。
  そのために、先生方をサポートする視聴覚教材が必要です。先生方が安心して使っていただ
  けるビデオやCDの教材がもっとたくさん開発されるといいと願っています。それを上手に使
  いこなしながら、「英語って、こんな風に使われるんだよね。」と子どもたちと一緒に視聴
  しながら、子どもの学びを見守っていけるようになるといいですね。

  そんな視聴覚教材を活用しながら指導する方法も含めて、子どもたちとどのような言語活動
  を進めていくと、英語のルールに敏感な学習者に育てることができるか、次回は具体例を挙
  げてお答えしてみたいと思います。

                               久埜 百合  (中部学院大学)



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